エピソード1 「LOST」 立岩 広人
それは私がまだ小学校に上がる前4~5歳の夏の記憶だと思う。小さな実家の2階で母は隣の部屋で昼寝をしている私の様子を窺いながら、内職の洋裁を仕立てている。昭和30年代当時はエアコンが無くても窓を開けるだけで涼しくて爽やかな風が吹いて昼寝には最適な環境だった。窓からみえる大きなクスノキが陽射しを和らげ風で揺れる木の葉と、クスノキに集まるアオスジアゲハの乱舞が私を優しく夢の中へ導いてくれた。 小学生に上がると夏休み高校教師であった伯父が、喘息持ちだった私の身体を鍛えようと毎日のように袖ヶ浜海水浴場へ通った。その隣の鴨ヶ浦海岸の潮溜まりは、まるで海の生物図鑑の様に色んな生き物に出会えた。 令和6年1月1日16時10分けたたましい緊急地震速報で身構える。数秒後に到達した揺れは今までに経験したことがなく大きく長く「家が崩れる」と感じる程だった。幸い自宅は2階で落下物があった程度で難を逃れたが、テレビで情報を収集すると被害の規模が大き過ぎてただ唖然とするばかり。実家近くのビルが倒れ輪島朝市通りが激しく燃えている。暫くはとても現実の出来事とは思えなかった。大切な思い出の舞台が大きく変わってしまった。亡き両親との思い出、友達との思い出、沢山の思い出が…。 同年9月21日更なる災害、奥能登豪雨に見舞われた。
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